第17回『自前のシステム開発』

2011年8月8日 三代目奮闘記

自前のシステム開発 2011_08_08

由紀精密には変わった経歴の社員が多い。笠原真樹もその一人。彼は私と中学・高校の同級生で、大学院では航空材料の解析関連の研究をしていた。最初に勤めた大手ソフトウエアメーカーを飛び出して今この小さな町工場に勤めている。私が引き抜いたわけではなく、由紀精密では私の先輩である。彼は、大規模なデータベースを扱ううちに、その実際に使用されている立場で仕事をしてみたくなったということだ。その後、たまたま大学時代にインターンとして短期間働いた由紀精密に就職することになった。

 

由紀精密ではまず、大混乱している在庫材料の管理システムの構築からはじめた。毎日、何十キログラム、何百キログラムという材料を実際に運んで整理し、データベースに登録する。まさに、デジタルの世界では味わえない経験である。私が入社した2006年には、すでにバーコードで材料在庫を管理するシステムができあがっていた。今となってはこのシステムがなければ航空機の品質規格を取ることは困難であった。

 

社内のIT化に対しては、ほとんど全ての中小企業が悩んでいるのではないだろうか? 受発注から生産管理、在庫管理、スケジューリング、会社の営みを一元管理できるようなシステムを購入しようとすると、どうしても1000万円を超える費用が必要で、さらに、新しい仕様が発生するたびに数十万円という追加開発費用がかかってしまう。由紀精密のような20人規模の会社でこの投資は非常に勇気がいる。そこで一般的なソフトウエアを使って自社で部分的に追加開発すると、バラバラのデータベースができあがり、何度も同じデータを入力する手間が発生してしまう。

 

なんとか自社で自由に発展させられるシステムが開発できないだろうか? 笠原と何度も繰り返し議論するうちに、やはり自分たちで作ろうという結論に至った。それと同時期に、法政大学の西岡先生を中心に開発している、中小企業向けのプラットフォームを使用する話が持ち上がった。これをベースとして、由紀精密のシステムをうまく構築できれば、まさに、自社で進化させられる社内システムができあがる。

 

やると決めたものの、笠原がシステム開発だけやっていられるほど人手は豊富ではない。半分は日々の生産に関わる業務をこなしながらの開発。いつ終わるか?使えるものができるか?常に不安と闘いながらも、いろいろな方の支援を受けて完成を目指している。すでに一部は現場で動き始め、工程管理部分は旧来のシステムから移行できた。新システムのメリットが出始め、社員の受けも良い。これは、現場を知りながら開発している、新しいタイプのシステム開発者の効力であろう。

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(日刊工業新聞 2011年8月8日付オピニオン面に掲載)

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