第21回『和のモチーフで集客』

2011年9月19日 三代目奮闘記

和のモチーフで集客 2011_09_19

今年6月、パリ航空ショーの出展準備をバタバタと進めていた。当日の接客の様子をシミュレーションし、展示するサンプル、リーフレット、タペストリー、動画、ブースデザインと、ひと通りの準備をしたが、何か物足りない。これで良いか?と自問自答しながら、やはり、航空ショーに集まってくる世界のお客さまに、何か面白いプレゼントを用意しようということになった。

 

一つは折り紙。2月に米国アナハイムの展示会に参加した時に非常に好評だった。今回は、ただ折って渡すだけではなく、由紀精密のロゴと展示しているブース番号を、ちょうど折り鶴の羽の上に印刷した。展示会場で折り紙に興味を持ったお客さまがそれにつられて由紀精密のブースに集まってくるような工夫だ。

 

ただ、折り紙だけでは、日本の雰囲気は伝わっても、切削加工屋さんの色が出せない。そこで、以前から作ろうと思ってなかなか実現できなかった「独楽(コマ)」に挑戦することになった。独楽は回して楽しく、良く回るものを作れれば、旋削加工の精度もアピールできる。デザインもシャープで洗練されたものにして、見ているだけで由紀精密の製品イメージが伝えられるようにしたい。急きょ、デザイナーの前川氏の意見も聞きつつ、設計に入った。すでに展示会開催までに時間はない。

 

設計は思ったより難航した。よく回るように一つの加工工程で作りたかった。段取りを変えた時に芯がふれてしまうのを防ぐためだ。また、コストをかけないように、連続加工できる自動盤で加工可能な形状にする必要がある。あまり大きな金属の塊を渡すのもナンセンスなので、外径は10ミリメートルとした。とても小さいが軸が短いとうまく回せないので、外国人の太い指も想定し十分な長さをとった。この多くの制約の中で、最終的に非常に魅力的なプロダクトが完成した。

 

最初の設計では、手で回す軸の部分に滑り止めのローレットを加工する予定だったが、自動盤で加工する制約があり途中で諦めていた。渡仏まであと数日、数百個でき上がった独楽を回して遊んでいると、社長がひょっこり顔を出した。「ローレット入れようか?」と一つ持って現場に消えた数十分後、きれいにあや目のローレットが入ったものを持ってきた。もう30年以上前から使っている、手動の転造盤で加工したのだ。

 

これこそ、新しい数値制御自動盤と歴史を物語る古い機械、職人技術の融合。デザインも引き締まり、いかにも由紀精密らしい独楽ができあがった。期待通りパリでの評価は高く、その後もソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて評判が広がりつつある。小粒だがピリッと光る町工場のオリジナル商品になりうるか?

20110919

(日刊工業新聞 2011年9月19日付オピニオン面に掲載)

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