第22回『中小のブランド力』

2011年9月26日 三代目奮闘記

中小のブランド力 2011_09_26

中小製造業と大手メーカーの大きな差の一つに、ブランド力がある。もちろん、広告宣伝費をどれだけ使えるか?という資金力の問題もあるが、常に自社商品を世の中に出している大手メーカーに対し、メーカーから依頼された部品を作る由紀精密のような下請け製造業は、自社の商品、自社のブランドをイメージすることなく事足りてしまう。これで良いのだろうか?名だたる大企業に勤める友人は、自社のロゴの入った名刺を誇らしげに渡している。はたして、由紀精密の社員は自分の名刺を出す時に、どんな気持ちだろう? 「知らないと思いますが、こういう会社のものです」と、申し訳なさそうに差し出すのだろうか?

 

由紀精密に入社した2006年、私はまっ先にロゴマークを作成した。ただかっこいいロゴマークが欲しいということではない。社員、お客さまはもちろん、会社に関わるすべての人に、自社を視覚的にぱっと認識してもらえる象徴を作ることで、そのイメージを中心に、一体自社はどんな会社でどんな特色があるのか?という意識を共通化したかった。ブランド戦略と言えるだろう。

 

ロゴマークはおなじみのデザイナーと一緒に徹底的に考えて作成した。字体は全くオリジナルである。縁は細く流れるようになっていて、シャープな雰囲気を出している。由紀精密は60年の歴史がある。もともともはねじ屋から始まった。その歴史を大切にする意味をこめて、横に倒したねじにも見えるようにした。今となっては航空機の部品が増えているので、この字体が航空機の翼のようにも見えてくる。

 

このロゴマークは、名刺はもちろん、会社のプレゼン資料から段ボール箱、封筒、ユニフォームにいたるまで、いたるところに浸透させた。お客さまが設計した図面の製品を作る。それを由紀精密のロゴの入った段ボール箱に詰めて出荷する。そこには、製品だけではなく、確かな品質、安心感、正確さ、新しい提案、由紀精密の付加価値がいっぱい詰まっている。検査表や提出書類では表せない価値が込められている。とてもうれしかったのは、ある社員から「これでは、由紀精密の製品として出荷できません」という言葉を聞いたとき。ここにこそブランド価値の本質があると思った。

 

5年たった今、全く面識のないお客さまからも、そのロゴは見たことがある、と言っていただくことが確実に増えている。名刺を出したとき「あ、あの由紀精密さんね」と言っていただけた時のうれしさ、それは、名だたる大企業の名刺を出す時の優越感とはまた違った格別のものかもしれない。

 

社員が自信を持って自分の会社の名刺を出せる。町工場でも、そんな会社になれたら素晴らしいと思う。

20110926

(日刊工業新聞 2011年9月26日付オピニオン面に掲載)

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