第56回『KENKA COMA』

2012年7月16日 三代目奮闘記

KENKA COMA 2012_07_16

由紀精密は小さなコマを製造し、一般のお客さま向けに販売している。きっかけは2011年6月にパリで開催されたパリ航空ショーだ。ここに出展した際に、お客さまに配るノベルティーとして用意した。小さくても精密で繊細、洗練されたデザインも伝わる。もちろん回転する性能も高い。由紀精密で扱っているジェット旅客機の部品と全く同じ生産ラインで作る。何度も試行錯誤した上で、直径10ミリメートルのコマが完成した。パリ以上に、日本に帰ってから評判になり、最初はお土産として配っていたが、製造コストもかかることから販売を始めた。

 

急速に売り上げが伸びたのは今年2月からだ。このコマに触発された製造業のグループ(心技隊)が、全日本コマ大戦というイベントを開いた。フェイスブックで参加者を募ったところ、あっという間に定員を超え、大変な話題となった。

 

もちろん由紀精密も参加した。レギュレーションは直径20ミリメートル、戦わせて長く回った方が勝ちというルール。他の参加者よりも、少しだけだが、長くコマを研究していたこともあり、負けられない。試作品を100個以上作り、こだわり抜いて強いコマを作り、苦戦したが優勝した。

 

この優勝は多くのメディアに取り上げられた。コマ大戦に出したコマとは異なるが、由紀精密の小さなコマ「SEIMITSU COMA」は爆発的に売れ、その後1カ月間で約3000個の売り上げを記録した。価格は税込み840円。販売コストを引いても、小さな町工場である由紀精密にとって、この売り上げはばかにならない大きさである。

 

ついつい欲が出て、次の製品、次の販路拡大、と考えたくなるが、中途半端なモデルを作って品質を落とすわけにもいかない。本業はあくまでも信頼性を売りにする精密加工メーカーである。

 

初期のSEIMITSU COMAが完成してから1年以上が過ぎ、ようやく次のモデル「KENKA COMA」が完成した。初代は小さいながらも止まっていると勘違いするほど安定して3分以上回り続けることが売りだった。これをベースに外周部分に凹凸を付けた。初代が「静」であるとすると、2代目は「動」。二つのコマがぶつかると激しく弾け飛ぶ。おわん型の土俵で戦うベーゴマのような遊び方ができる。カチカチと心地よい音を立ててぶつかり合う姿は何度見ても飽きない。構想はかなり前からできていて、試作を重ね、デザインも工夫し、ようやく満足できるモデルができ上がった。7月中の発売を予定している。  町工場での製品開発はおもしろいが難しい。売れなくても会社が傾くような投資はせず、もともと持っている技術がうまく生かせるものの中で、キラリと光るアイデアを出していきたい。

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(日刊工業新聞 7月16日付オピニオン面に掲載)

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