第59回『BRANCHと町工場展』

2012年8月6日 三代目奮闘記

BRANCHと町工場展 2012_08_06

渋谷ヒカリエ。JR渋谷駅目の前の東急文化会館跡地に建つ地上34階建ての複合ビルである。この8階に由紀精密で作られた金属の精密部品が展示されている。航空宇宙・医療機器などの精密機械部品の切削加工が本業だが、一般消費者向けの製品も作る。最近、直径1センチメートルの小さなコマであるSEIMITSU COMAがヒットしたが、何年も前からさまざまな試みを行ってきた。本連載の6回目で触れたように、「工場デザイナー」という肩書を持つ前川曜氏と、デザイナーと町工場で新たな価値を生み出す「BRANCH(ブランチ)」というブランドを立ち上げた。現在は前川氏が代表となり会社組織として活動している。

 

話はヒカリエに戻るが、この8階にあるコクヨファニチャーが運営するコワーキングスペース「クリエイティブラウンジ モヴ」のaiiima(アイーーーマ)というスペースで、「BRANCHと町工場展」という展示会を7日まで行っている。前川氏を中心としたプロダクトデザイナーの製品と、それを製造する由紀精密と海内工業、ミヨシ、ジェイエムシー、西村金属、他数社の中小企業の展示が行われている。

 

筆者も何度か足を運び、お客さまの声を聞いてきたが、大きな展示場で行われる工業技術の展示会に訪れるお客さまとはかなり分野が異なり、面白い。モノづくりに今まで興味がなかった方が、目を輝かせて製造方法についての話を聞いてくださる。楽器の業界では世界的に有名な方が、金属加工用の工具にくぎ付けになり、楽器製造でも使えないか、と真剣に質問される。まさに異業種、異文化の融合が図れるとても貴重な機会となった。

 

BRANCHでの記念すべき最初のプロダクトである、TIPSYという製品がある。これはワインボトルの上にコンパクトカメラを取り付けられるアイデア商品で、品質・デザインにこだわりぬいて作った。これまでウェブ販売では少しずつ売れていたが、ヒットというほどではなかった。しかし、ここは渋谷。こういったものに興味をもたれるお客さまが多く、反響は予想以上である。

 

今まで、これほど渋谷駅の近くで展示会を行った町工場があっただろうか。今までと違うことを行うこと、常識を破ることこそ、今の製造業に漂う不安の厚い雲を吹き飛ばすことになるのではないだろうか。

 

学生のころ慣れ親しんだ渋谷である。しかし、都内から茅ケ崎に引っ越してきて6年以上がたち、素晴らしい環境で落ち着いて仕事することに喜びを感じる年齢になった。とはいえ、たまには東京のど真ん中で多種多様な文化にふれ、脳みそを刺激し、新たな発想を生み出すことも重要だと思い返す良い機会となった。

20120806

(日刊工業新聞 8月6日付オピニオン面に掲載)

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