第6回『一般消費者向け製品』

2011年5月9日 三代目奮闘記

一般消費者向け製品 2011_05_09

前川曜というデザイナーがいる。彼の肩書は、「工場デザイナー」である。彼とは、私が前職在職中からいろいろなものを一緒に作っており、その流れで由紀精密のロゴマークからウェブサイトまでデザインのほとんどをお願いしてきた。彼のデザインは秀逸で、無駄がない。もともとモノづくりが大好きで、いくらでもこちらの話を聞いて、デザインの元となる要素から一緒に考えてくれる。何度も話しているうちに、由紀精密で作った製品を一般消費者向けに売り出そうという話になった。

 

ただし、私は町工場が一般消費者向け製品を手がけることに関して、完全に賛成とは言えない。自分が買う側の立場から見ると、仕事が暇なときに片手間で作った製品にはあまり興味がわかない。また、販売する対象は個人になるため、クレーム対応も含め、管理コストがどのくらいかかってくるか想像もつかない。そもそも、それで本業を圧迫してしまったら本末転倒である。そういうわけで、今までアイデアはあってもそれを一般向けに売り出すことは、競技用バイクのパーツ以外は手を付けてこなかった。

 

ある展示会で、商社の方から声をかけられた。由紀精密で展示用サンプルとして作ったオモチャが面白いから売りに出さないか?ということである。最初は乗り気で話していたが、問題となったのはやはり価格。パッケージ・説明書を作ってPRして小売りに出してと、モノを売るのには大変な経費がかかる。一般消費者から求められる価格から逆算すると、とてもではないが、まともに利益が出る仕事にはならなかった。

 

本当にクオリティーの高いものを、個人でも手の届く価格帯で売り出せないか? 2010年、前川曜を中心にBRANCHというブランドを立ち上げた。デザイナーと町工場を直結し、中小の技術力を生かした製品を直接、市場に投入する試みである。最初の製品であるカメラマウント「Tipsy」の製造で由紀精密も中心的な役割を果たした。販売はネットが中心で、店舗には並べない。デザイナーは町工場の良さを生かした製品をデザインし、洗練されたウェブサイトで広告する。町工場は製品を作る。初期の原材料費、製造費は町工場が負担し、デザイナーは初期投資とリスクなしで、新製品にどんどんチャレンジできる。もちろん、製品が売れれば町工場は売れた分の費用を回収できる。

 

これが、一獲千金を狙えるビジネスとは全く思っていない。しかし、町工場が一般消費者向けの製品を作るための、ひとつの枠組みを作ることができたと思う。今日も、BRANCHブランドでの新製品の打ち合わせがある。由紀精密以外の町工場もどんどん巻き込んでいる。何よりも大切なのは製品を生み出すこのワクワク感であろうか。

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(日刊工業新聞 2011年5月9日付オピニオン面に掲載)

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