第66回『金属加工と音楽の関係』

2012年10月1日 三代目奮闘記

金属加工と音楽の関係 2012_10_01

高木大は複合自動旋盤を操り、複雑な金属部品を加工する。由紀精密に入社して数年だが、難易度の高い部品加工を安心して任せられるようになっている。その彼があるピアノコンサートで入賞したとの知らせが入ってきた。

 

彼の経歴は一風変わっている。音楽大学を卒業後、航空自衛隊へ入隊。レーダーを担当していた。その後由紀精密で精密加工を行う。彼のピアノを聴いたが、表情のある素晴らしい演奏だった。その彼に機械加工を指導する木村雅之はわが社一番の職人である。その木村もかつてはプロを目指したほどのギターの腕前だ。音楽活動を中心に置くためにアルバイトとして由紀精密に入ったが、センスの良さで工場のすべての機械を使いこなし、欠かせない存在になった。

 

筆者も音楽との付き合いが長い。幼稚園でエレクトーンを始め、その後ピアノを高校生まで続けた。才能的には際立つものはなかったが、音楽はずっと好きだった。中学3年でロックバンドを組み、ギターやキーボードを担当した。高校時代はロックと並行してジャズにもどっぷり漬かった。ジャズバンドで毎週のようにステージに立ち、米国でバスに楽器を積み込んで演奏旅行をしたこともあった。当時、同じロックバンドでベースギターを担当していたのが、由紀精密でシステム開発を担当している笠原真樹である。数えてみたら由紀精密の男性社員の7割が何かしらの楽器を演奏することになる。偶然かもしれないが、とても興味深い。

 

楽器を演奏する技術を身につけることと、金属加工の技術を身につけることはプロセスが似ている。まず弾き方を覚える。機械で言うと操作方法を覚えるということになるだろう。そこからが長い。何度も練習し、さまざまな曲を弾き、良い演奏を聴いて刺激を受け、また練習する。

 

楽器を弾ける人の中でも、始めたばかりの素人から、多くの人に感動を与えるプロの間に大きな差があるように、機械を扱える人の中にも大きな差がある。機械加工も奥が深く、極めるにはかなりのこだわりが必要になる。また、そのこと自体が「好き」であることも重要な要素であろう。

 

考えてみると、製造業の先輩経営者の中にもプロ級に楽器を弾きこなす方が多い。山川機械製作所(神奈川県平塚市)の小川敦社長は自ら率いるバンドで地元の顔となり、今野製作所(東京都足立区)の今野浩好社長は大学時代からジャズギターを演奏し、経営と音楽の両方で盛り上がる。両者ともに尊敬する経営者である。

 

由紀精密の食堂にはギターとキーボードが常に置かれている。近い将来、工場ライブをやってみたい。普段は甲高い切削加工の音を響かせる工作機械に甘いピアノの旋律が跳ね返る。次の日の仕事にも気持ちよく取りかかれるかもしれない。

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(日刊工業新聞 10月1日付オピニオン面に掲載)

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