第68回『売上高2.5倍の裏に大きな変化』

2012年10月22日 三代目奮闘記

由紀精密は10月から新しい期が始まった。創業からは62年目、株式会社になって53期目だ。52期を終えて売上高は前期比約10%増えた。ITバブル崩壊後の辛い時期から、ここ10年でおよそ2・5倍になった。売上高の推移だけ見れば、堅実に成長しているように見える。

 

しかし10年前と比較すると、当時の主力だった電気・電子・通信系の業種への売り上げの割合は2割まで落ち込んだ。その代わりに航空宇宙、自動車試作、医療機器関連業務が大きく伸びている。

 

幅広い業種に展開していくことはリスク分散にはなるが、業務効率は落ちる。対応する製品形状が多様化し、工程が増えるからだ。顧客によって要求される品質も管理方法も異なる。業務効率はそのまま利益率につながる。実際、2・5倍に成長した10年間、まともな利益を出せなかった。

 

顧客数が増え、売り上げが大きくなったとしても、何かしらのブレークスルーがないと、しっかり利益を確保できる体質づくりは難しい。

 

業務の多様化以外に、もう一つ大きな変化がある。それは、2006年(47期)に開発部を立ち上げたことだ。自社で設計をして、図面を書き、部品加工を行い、組み立て・検査し、出荷する。お客さまが由紀精密に仕様を相談すれば、設計から完成品まで責任を持ってまとめる。ということで、開発部は順調に売り上げを伸ばし、52期は売上高比率約3割にまで成長している。業務の多様化も開発部にとってはよい知識の源泉となった。

 

開発部の成長は加工部門にも売り上げをもたらす。自社で書いた図面なので、製造の効率もよい。コストや納期もコントロールしやすい。この流れが利益を生み出し、ようやく52期にはそこそこの利益率を上げるようになった。

 

もう一つ、売り上げへの貢献はまだ小さいが、会社の可能性をさらに広げる試みを10年(51期)に始めた。一般消費者向けの製品を製造販売するプロジェクトだ。デザイナーと手を組んでスタイリッシュな製品を製造し、BRANCHという新しいブランドで販売する。立ち上げ当初は売れなかったが、前期は数百万円売り上げ、売上比率も1%を超えた。

 

一般消費者向けの製品は単価をそれほど上げることができず、本当にヒット商品を生み出さない限り、これまで企業を相手にしか商売をしてこなかった下請け製造業が利益を出すのは困難だ。しかし、ものづくり企業としては、何を作るか?というところから自分で考えることは大きなモチベーションとなり、会社全体も活性化する。  こうして、最後には”ものをつくれる”という強みを切り札に、その製造技術を生かした製品開発へと徐々にシフトしつつある。仕事の楽しみも大きく変化してきている。

20121022

(日刊工業新聞 10月22日付オピニオン面に掲載)

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