第92回『3Dプリンターの可能性』

2013年5月20日 三代目奮闘記

3Dプリンターの可能性 2013_05_20

最近、3Dプリンターが大変な勢いで広まっている。通常のプリンターが紙に2次元的な「絵」を印刷するものとすると、3Dプリンターは、3次元的な「立体」を印刷する。我々の身の回りにあるあらゆる「もの」は立体で、これらは何らかの方法で作られたものだ。立体をすべてプリントアウトするかのように製造できれば、可能性は無限に広がるだろう。

 

筆者は大学4年生の時、3Dプリンターの方式の一つであるFDM(Fused Deposition Modeling〈熱溶解積層法〉)に関する研究をしていた。もう16年前だ。溶かした樹脂をノズル先端から出しながら走査し、面を塗りつぶす。更にその上にまた溶かした樹脂を塗り重ねていく。当時、機能を持つ樹脂(導電性、弾力性など)を複数種類を積層し、形を見るためだけの試作ではなく、機能をもたせる事ができる、と考えていた。

 

例えば、電子回路や機構部品もそのまま造形し、でき上がった時点で走り出すラジコンカーができたりする事を夢見た。この研究がきっかけで、3Dプリンターの元祖である光造形機をいち早く日本輸入し、サービスを始めたインクス(現ソライズ)に入社。同社は、デジタルデータからダイレクトにモノづくりをする事を目指し、光造形機はデータをそのまま形にするツールだった。

 

1990年に光造形機を輸入しサービスを始めた頃は、まだ3次元を扱えるCAD自体があまり普及しておらず、こちらの導入も同時に進めた。20年以上経た現在。背景は大きく変わった。3次元データを扱える情報端末は、数百万円したワークステーションから手のひらサイズのスマートフォン(多機能携帯電話)になった。3次元データを作れるCADは、1000万円を超えるものから、ダウンロードできるフリーウエアになった。数千万円もした3Dプリンターが、20万円を切る価格で手に入るようになった。これらは、3Dプリンターブームを一気に加速させた。しかし、20年前も現在もほとんど変わらないものがある。製品を作り出すスピードだ。確かに機器の性能向上により、数倍早くはなっている。

 

しかし、金型を使う量産に比べれば、製品一つを作る事を考えると、何千倍、何万倍の時間がかかる。例えば、3Dプリンターで数時間でマウスのケースが作れても、金型を作って射出成形する場合は、数秒で何個もまとめて作る事ができる。金型さえ作ってしまえば量産は圧倒的に早い。品質も高い。

 

この考え方を頭にいれ、何でもかんでも3Dプリンターで置き換えようとするのではなく、3Dプリンターの利点が最大に発揮できる新しいビジネスモデルを構築する事が、今後の製造業に大きなインパクトを与える事になるだろう。

20130520

(日刊工業新聞 5月20日付オピニオン面に掲載)

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