第87回『中小に理想のシステムとは』

中小に理想のシステムとは  2013_03_25

由紀精密は業務システムを自社開発している。外部のシステムを導入するのはコストがかかる。高機能なパッケージソフトは高価で、保守費用もばかにならない。また業務拡大に応じてシステムの適用範囲を拡大していく必要があり、これも追加のコストにつながる。さらに、いざ作ってみたものの、運営の途中でさまざまな問題が発生し、使いづらくなり使わなくなってしまう事態もあるだろう。

 

システムは自社で開発し、細かい要求にリアルタイムに応えられる体制を作りたい。由紀精密は5年前に、現最高情報責任者(CIO)の笠原真樹を中心に、自社製システムで運用を開始することを目標としたプロジェクトをスタートさせた。業務ごとにバラバラのデータを統一させて多重入力をなくし、多品種小ロット、顧客増加への対応を手間をかけず、正確に行うのが狙いである。

 

高い目標でスタートしたものの、実際には莫大(ばくだい)な開発工数がかかり、通常業務と並列になり難航していた。その時に、法政大学の西岡靖之教授が開発していた「コンテキサー」に出会う。これは、実家が中小製造業を経営していたという西岡教授が、小さな会社でも自社でシステムを簡単に作れることを目指して開発したツールだ。

 

このツールで業務ごとにバラバラなデータを連携させることができる。例えば、受発注を管理するソフトと工程の進捗(しんちょく)を管理するソフト、在庫管理ソフトを、このコンテキサーを使って中のデータを連携させることができる。

 

インストールするだけでデータが連携するわけではないが、ルールを決めて、後はエクセルに似たテーブル上での簡単な操作でデータをつないでいく。これにより、全社のシステムをすべて開発してから一気に新システムに置き換えることをしなくても、既存ソフトを使いながら部分的に新システムを投入して、データをつなげられる。古くなったソフトを別のものに置き換えても、その都度データをつなげられる。

 

データ統一のためにシステム全部を置き換えなければと気負う必要がなく、それぞれの業務で使いやすいソフトを残しつつ、データだけ連携させていくことができる。これは中小企業にはうってつけのツールといえるのではないだろうか。

 

由紀精密はこれを武器にシステムを自社開発し、運用している。今年も、多品種・小ロット・高品質が当たり前の航空・宇宙産業向け部品の増加に伴い、これに合わせたシステム開発を進めている。会社の成長に合わせて成長するシステム。問題も多いが、夢は広がっている。

20130325

(日刊工業新聞 3月25日付オピニオン面に掲載)