第85回『選択と集中?』

選択と集中? 2013_03_11

経営やビジネスの本で「選択と集中」という言葉をよく見かける。自社の強みを見いだし、そこに資源を効率的に集中させることが成功のポイントということだ。由紀精密はできているかというと、お世辞にもできているとは言えない。むしろ電気業界への一極集中だったのをあらゆる他分野へ分散し、顧客数を増やしてきた。それだけではなく、研究開発、さらには一般消費者向けのビジネスにも手を出している。明らかに集中はしていない。

 

確かに業務効率は落ちている。社員数は変わっていないのに顧客数が数倍になり、管理手法も複雑化、多くの社員が多種類の業務をこなさなければいけない状況で、社内は明らかに混(こん)沌(とん)としている。これは売り上げ増加に対して利益率が順調に上がってないことを見てもわかる。

 

しかし、こうしてこなかったら、今の由紀精密はない。過去の一極集中のままでは売り上げは下落し続けている。集中ではなく拡散が、今生き残っている理由でもある。先日、ある方から、「選択と集中が日本のメーカーをつまらなくした」というお話をうかがった。利益が出るところ以外の事業を切り捨てたことで、画期的で新しいことが生まれなくなってしまったということだろう。

 

例えば米アップルが次々と世に生み出す製品、米グーグルがインターネットで展開するサービスは選択と集中の過程から生まれることは難しかったのではないか。由紀精密はどうするか。このままの展開をさらに広げていくか。実はこれまで広げすぎてきたサービスを「選択と集中」していく必要を感じている。

 

ここでいう選択と集中とは単一化とは違う。これまで大きく展開してきたビジネスに、限られた資源をどこにどれだけ充てるか。慎重に検討していく必要がある。展開してから集中。集中してきたアウトプットを次の展開に生かす。このサイクルが事業を発展させていくと感じる。

 

展開していく局面では、一見無駄と思われてしまうこと、利益が出ないと思われることにもチャレンジしていく必要があるだろう。このチャレンジも、ただ闇雲にやるのではなく、由紀精密の場合は精密加工がコアコンピタンスなので、この応用技術から攻めていく。

 

週末、自分が関わっている、あるいはこれから関わるであろうプロジェクトをまとめていたら、13プロジェクトが並列していることが分かった。それぞれにワクワクが詰まっており、これを一つに絞ることは到底できない。ただ、中途半端になっては本末転倒。どこにどれだけリソースを割り振り、いつまでにアウトプットを出すか。計画力・実行力が試される局面である。

 

20130311

(日刊工業新聞 3月11日付オピニオン面に掲載)