2013.2.11
三代目奮闘記
第81回『茅ケ崎でモノづくり』
茅ケ崎でモノづくり 2013_02_11
茅ケ崎市で町工場といってもイメージがわかない人が多いようだ。父の世代では加山雄三、筆者の世代では桑田佳祐に代表される、湘南の海と明るい音楽が一般的なイメージであろう。町工場といえば関東では東京都大田区、関西では大阪府東大阪市がそれぞれ集積地帯として有名だ。神奈川県でいうと川崎市。実際に横浜、川崎には大手企業の大工場も多い。そのため下請企業の工場も当然多くなる。茅ケ崎は、多くの自動車関連の工場が集まる平塚市(日産自動車関連)、藤沢市(いすゞ自動車関連)に挟まれているものの、両市に比べて工場が少ない。
筆者の生家は茅ケ崎に対する世間のイメージとはかけ離れた、一番北のはずれの山奥にある。海からも遠く、交通の便が悪いため大学3年から前職時代までは都内に住んでいた。
湘南としての茅ケ崎に初めて出会うのは、由紀精密に入社すると同時に海まで歩いて数分の場所のマンションに引っ越してきてからだった。茅ケ崎駅は東京駅から約1時間、横浜から約30分。新宿湘南ラインを使うと新宿まで1本で1時間以内だ。由紀精密は茅ケ崎駅から歩いて20分ほどの距離にある。 由紀精密には多くのお客さんがみえる。近年は工場見学に遠くから訪れる方も増えてきたが、特徴的なことは都内や横浜方面に勤務している湘南在住の方が、通勤前や帰宅途中に気軽に立ち寄って下さることであろうか。社長も現場に立ち、生産のすべての機能が小さな2階建ての工場内に集積しているので、ちょっと立ち寄って、モノづくりに関することを相談するには都合がいい。
打ち合わせのついでに、その場にある材料で試しに削ってみたり、素材、加工品のサンプルを手に取り仕上がりを想像したり、持ち込まれたサンプル品を計測してみたりと、机とホワイトボード、ノートパソコンだけでの打ち合わせではなく、ワークショップ的な体験ができる。
由紀精密のキャッチフレーズの一つに「研究開発型町工場」を掲げている。町工場という言葉を使ったのは「近くにあって、実際にモノを作っているところ」という感じの、モノづくりに対する距離を縮めたいという思いからだ。研究開発に従事する従業員数が全国で一番多い神奈川県。その中で、海と美しい富士山を望む住環境としては素晴らしい茅ケ崎で、新しいモノづくりを考え、体験する。
由紀精密が茅ケ崎にあるのは祖父の代からで、とても恵まれた立地であると思う。海外に事業を展開する時が来たら、主要都市からのアクセスがそこそこよく、住環境がよく、研究開発関連の企業が多く存在するところを選びたい。
(日刊工業新聞 2月11日付オピニオン面に掲載)