第16回『機能とデザイン』

機能とデザイン 2011_08_01

少し前の話になるが、2009年5月、六本木ミッドタウンの「21_21DESIGN SIGHT」にて、プロダクトデザイナーの山中俊治氏ディレクションによる「骨」展が開催された。ここでは、「骨」をテーマとして、さまざまなアーティストやデザイナーの展示が行われた。その中に、6本足で高速に走りまわる小さなロボットが出展されていた。タクラムデザインエンジニアリングが開発した「Phasma」である。

 

単純な直線や円弧からなるシンプルなデザインのこのロボットは、止まっている時はいかにも硬質なロボットという風貌である。しかし、一度動きだすと、そのスピードと躍動感は、たまに台所に出没し人間を恐怖で震え上がらせるあの黒光りした昆虫そっくりに見えてくる。幸運な事に、由紀精密はこのロボットの製造を引き受けていた。

 

きっかけは、大学の研究室の後輩でもある、タクラム創業メンバーの一人である畑中元秀さんからの依頼であった。彼は、大学卒業後に米国の大学院でこのロボットの元となる技術を研究。日本に戻って起業し、現在はデザインとエンジニアリングで次々と新しいものを生み出す、すばらしい会社を経営している。

 

彼からの依頼は機械屋魂を刺激するものだった。ものを作るとき、その機能を実現する形状と製造方法には多くの選択肢がある。大抵の場合、一番コストがかからずに機能を満たす方法を選択する。しかし今回は違う。機能を十分に満足させるのはもちろん、その形から機能がにじみ出てくるような、シンプルで洗練されたデザインになっている。

 

作る側は大変だ。通常なら板を曲げて穴を開けるであろう部位でも徹底的にディテールにこだわり、四角いブロックから削り出して複雑な形状を作ることになる。当初の設計では、加工が不可能という部分も何点かあったが、デザインで妥協することなく、徹底的に話して解決案を探ってきた。

 

できあがったロボットは、「骨」展では常に人だかりができ、その後の国際ロボット展では、会場全体で一番面白いと言ってくださるお客さまもいた。このロボットを見た方々の多くは「何に使うロボットか?」と質問する。「特定の用途はない」とか「展示会でみせるために」では面白くない。「素晴らしいデザインとエンジニアリング、そして町工場の加工技術が集結すると、こんなに魅力的なものが作れるのですよ。単純に欲しいでしょう?」と答えている。便利さ、コスト、機能性、それだけを追求してできあがっているものが本当に魅力的か? 日本製品はそこで苦労していると思う。たまにはこういった面白いものを作って、アイデアを広げていきたい。

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(日刊工業新聞 2011年8月1日付オピニオン面に掲載)