2011.7.18
三代目奮闘記
第14回『節電チャレンジ』
節電チャレンジ 2011_07_18
聞きなれない警報音が社内に鳴り響く。耳障りな音だ。それに反応して社員がさっと席を立ち、エアコンの電源を停止する。しばらくすると、不快な警報音がやんだ。由紀精密では節電目標の「15%減」達成に向けて、電気を一定以上使うとアラームがなる仕組みを導入した。消費電力が小さな工場では、電気の基本料金は時間あたり使用量のピークで決まるため、これを抑えれば電気代の節約に大きな効果がある。
小さな会社では節電目標をクリアできなくても罰金は無いが、もっとも基本的な固定費である電気代を抑えることは経営上重要である。本当に真夏の猛暑になれば、今のようにエアコンの調整だけで切り抜けられるかは疑問だ。由紀精密の現在の工場は、1983年に建設した。エアコンもボロボロで、室外機は足がサビで折れ傾いている。使用電力を測定してみると、とんでもない割合をこのエアコンで使っていた。機械設備がフル稼働して電気を使うならまだしも、古いエアコンに使われるのでは甲斐がない。
前から気がついていない訳ではなかったが、何かきっかけがないと実際の対策には動きにくい。いま、エアコンの買い替えは急務だ。同じ事態が全国の工場で起こっているのではないだろうか。エアコンだけではなく、工場の個別の設備がどれだけ電気を使っているか、この機会に調べてみるとよいだろう。測定はそれほど難しくない。1万円もしないクランプメーターと呼ばれる測定器で、その機械の主電源ケーブルの一部を挟んでやればリアルタイムに測定できる。これを使って自社の設備がどのような状態(停止時、稼働時、高速運転時)にどのくらい使っているかを把握できれば、それに合わせて稼働時間をずらす等の細やかな対策が取れるだろう。
やはり、何かの問題に対策を講じるときには、見える化が重要だとつくづく思う。見える化し、出てきたデータを細かく分析することで、損失を最小化する。節電にしても、中小企業では、ただ単に休みの日や勤務時間帯をずらすといった大ざっぱな対策は最終手段であり、その前に頭を使ってできることはやるだけやってみる。小さい企業は小回りが効き、隅々まで見渡すことも容易だ。むやみに節電を意識して、生産を萎縮させてしまうことは、産業全体にとっての大きなマイナスになる。
節電を言い訳にしてはいけない、と自分に言い聞かせている。「節電だからしょうがないよね」と言ってしまったら、全てマイナスを許容してしまうことになる。
節電目標を達成しつつ、売り上げ目標も達成する。このくらいの課題にはあたり前のようにチャレンジするくらいの意識が、今の時代の中小企業経営には必要である。
(日刊工業新聞 2011年7月18日付オピニオン面に掲載)