第7回『海外展開を考える』

海外展開を考える 2011_05_16

パリでの1週間の出張を終え、シャルル・ド・ゴール空港の巨大なターミナルでこの原稿を書いている。今回の出張の第一の目的は、6月20日に開催される世界最大の航空・宇宙分野の展示会「パリエアショー」の出展者事前説明会への参加であった。初めてのパリであたふたしないよう、施設や交通機関を視察し、現地に在住する何人かの日本人にも会ってきた。

 

由紀精密は20人に満たない零細製造業である。しかし、多くの中小製造業がそうであるように、自社の部品には自信を持っている。多くの部品が最終的には世界中で使用されている。今年の年頭、私は社員に「由紀精密を100年企業にします」と宣言した。現在、創業60年。あと40年である。これからの40年間でいかなる変化が起ころうとも、由紀精密は自社の強みを生かして生き残る。例え世界が大恐慌になろうと、日本という国家がなくなったとしても。そういう思いを込めて言った。そんな中、3月11日に大震災が起きた。こんなに早く、これほどまでの変化が起ころうとは思っていなかった。

 

どんな変化が起ころうと、変わらないものはなんだろう?それは、モノづくりの技術力だと思っている。高い技術力で作ったものには世界共通の価値がある。しかし、日本の中小製造業の多くは、全ての技術力を国内の大手メーカーにささげている。何十年もお客さまから言われるがままに部品をつくってきた。今、その大手メーカーは、コストの安い海外に調達を切り替えている。全てをささげてきた中小製造業はどうなってしまうだろう?

 

これは、中小製造業側にも問題がある。他のアジア諸国の中小企業を見てみると、とても積極的に世界中から仕事を獲得している。視野は最初から世界である。それに対し、日本の中小製造業で、海外と直接取引しているところがいかに少ないか。もちろん、言葉の壁がある。輸出入の問題もある。これらが最初から全く問題にならないような能力を持っている中小企業はまれであろう。そのなかでも、海外展開が全く行われていないわけではなく、アジアへの進出は盛んに行われている。これは素晴らしい事だ。ただ、進出の理由として「安い製造コストを求めて」あるいは「大量消費地の近くに」という話を多く耳にするのだが、どうだろう。私には、安い人件費に頼ったビジネスモデルは日本の製造業に合っていないように思える。

 

由紀精密は少量高付加価値製品が売りなので、アジアへの展開よりも、最先端の技術開発を行っている先進国への進出を考えている。もちろん日本は技術開発の国の一つであり、ここはしっかりと力を入れ、さらに海外の先進国も同等に相手にできる会社に成長させていきたい。

20110516

(日刊工業新聞 2011年5月16日付オピニオン面に掲載)