第5回『営業社員ゼロ』

営業社員ゼロ 2011_05_02

由紀精密には営業社員がいない。創業当時からずっと営業を置かないスタイルを貫いている。だから60年間も零細企業のまま成長できていないのかもしれない。お客さまとのインターフェースは、社長あるいは出荷・検査の社員が受け持ってきた。新規顧客を開拓する機能は持っていなかった。この体制でよいのか? 成長するためにはもっと積極的に営業社員を募集して、どんどん仕事を取ってくる必要があるはずだ。私が由紀精密に入社した2006年からずっと自問自答しつつ、結論として現在でも営業社員を入れていない。

 

営業を軽視しているわけではない。仕事が入ってこないと会社は成立しない。もちろん、待っていても仕事が来る時代はとっくに終わっている。しかし、営業社員を採用しないまま、由紀精密はこの5年間で取引先をほぼ3倍に増やした。リーマン・ショックを無事に乗り越え、売り上げも右肩上がりになっている。何をしてきたか? 全社を挙げて仕事が入ってくる「仕組み」作りをしてきた。

 

まず、会社のCI戦略から見直す。ロゴマークをはじめとして、封筒、段ボール、名刺、ウェブサイトのデザインを一新し、由紀精密ブランドが一目でお客さまからわかるようにした。その後、無料の展示会から順番に出展、できるだけ多くのお客さまの前に由紀精密の名前を出すようにした。ウェブサイトは、自社のオフィシャルサイト(www.yukiseimitsu.co.jp)以外にも、「切削加工」で検索すると最初のページに出てくるようにSEO(検索エンジン最適化)対策を施した「サテライトサイト」(www.sessaku.net)を立ち上げ、多くの新規問い合わせが入るようになった。

 

しかし、ただ目立つだけではダメである。売りである切削加工技術をアピールしなければいけない。「航空宇宙関連の展示会で、どんなサンプルを出展したら技術力の高さをアピールできるか?」との視点で、数人の社員が3次元CADの前に集まりさまざまな形状を考えた。そこで生まれたサンプルは大変注目を集め、多くのお客さまから仕事をいただけただけでなく、2009年の切削加工ドリームコンテスト(森精機製作所主催)で金賞を受賞するなど、輝かしい成果を挙げてくれた。

 

次第に多くのメディアに取り上げられ、由紀精密の知名度も徐々に上がっていく。新規のお客さまが増え売り上げが拡大しても、管理人員を増やさないで済むよう、社内のシステムも社員自ら改善した。そんなさまざまな工夫により、由紀精密はお客さまや同業者のみなさんから「ちょっと気になる会社」として注目していただけるようになった。こうして、会社として仕事を集められる仕組みを作ることで、現在も着実に成長を続けられている。

 

(日刊工業新聞 2011年5月2日付オピニオン面に掲載)