第5回「新分野に踏み込む勇気を」

新分野に踏み込む勇気を

【超小型衛星部品を一括受注】

由紀精密が宇宙分野を目指したのは、今から8年ほど前。当時は電気業界向けの部品がほとんどで、人工衛星、ロケットなどの宇宙向けの部品など夢のまた夢であった。2008年の航空宇宙産業展への出展で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のテストパーツを受注できたことが業界参入の初めの一歩となる。以後JAXAとの取引を継続してはいたが、実際のフライト品に関わることになったのは、そこからまた数年。人工衛星を製造するベンチャー企業、アクセルスペース社からの1本のメールが超小型衛星の構造部品を1機分丸ごと製造するきっかけとなった。

超小型衛星の世界は関係者が横でつながっている、とっても狭い世界で、アクセルスペース社からの衛星受注実績のおかげで、多くの衛星部品を手がけられるようになった。変わったものでは多摩美術大学の久保田先生の考案した「ARTSAT―2 DESPATCH」というものがある。こちらは名前の通り、一つの芸術作品となっており、3次元プリンターで造形されたスパイラル形の変わった外観を持つ。この衛星は、はやぶさ2とともに地球の重力圏を脱出し、深宇宙をまさに今も航海している。

【厳しい耐環境性能要求】

宇宙部品に求められる性能は他の業種の部品と何が違うのであろうか。実績の多い超小型衛星の構造部品について考えてみよう。まず、素材はアルミニウム合金を使うことが多い。これは宇宙に持っていく部品には軽さが求められるからである。重量に対する強さを表す比強度でもアルミ合金は高い値を示す。このアルミ合金の表面にアルマイト、アロジンといったコーティングを行うことで、耐食性(錆(さ)びにくさ)を上げたり、熱に対する特性をコントロールしたりする。精度はどうだろう。構造部品に高い精度が求められる部分は、宇宙空間で動かす必要がある部分になる。摺動(しゅうどう)させた時に引っかかってしまっては大変だし、逆にガタついてしまうと、ロケットの打ち上げの振動で故障してしまう場合も出てくるだろう。

また、宇宙空間では、真空、温度環境、放射線、原子状酸素など、軌道の高さによっても影響の度合いは異なるが、さまざまな耐環境性能が要求される。これらは打ち上げ前に地球上で十分に試験されることになる。こういった宇宙特有の問題を把握しつつ、加工屋的な視点で、コスト的にも高くなり過ぎないような提案を行いながら設計に反映させることになる。何度も衛星に関わるチャンスが持てたことで、その衛星の持つミッション固有の問題にも対応しながら、多くの知見を得ることができたのは本当に幸運であった。

【「ゴミ掃除」で意気投合】

そんな中、大変に興味深い話が舞い込んできた。大学の先輩にもあたる、アストロスケール社創業者の岡田さんから、現在も宇宙開発においての大きな課題となっている宇宙のゴミ掃除を一緒にやりませんか、というお誘いだった。アストロスケール社はシンガポールに本社を持ち、衛星は国内の子会社で作っている。

実はアストロスケール社の創業前から岡田さんとは知り合い、宇宙のゴミ掃除に関して熱く語っていた。これがまだわずか3年ほど前であろうか。そこから意気投合して衛星開発の協力をすることになり、宇宙のゴミ掃除衛星に深く関わっていくことになった。アストロスケール社はそこから飛ぶ鳥を落とす勢いで成長し、数十億円もの資金調達に成功することになり、さらにこの勢いは加速している。

数年前には夢の世界だった宇宙機器の開発にこうしていくつも深く関わることになれたのも、もともと由紀精密が持っている信頼性の高い部品加工の技術、さらにそれを活用するために困難な課題にも可能性を考えて立ち向かっていくチャレンジ精神がお客さまから評価を受けた結果であろう。未開の地に踏み込むこと、これを自社で挑戦できることは経営者としてとても幸せなことだ。