第96回『時計部品、スイス出展』

時計部品、スイス出展2013_06_24

毎回の事だが、展示会準備はギリギリだ。ジュネーブへの出発当日の3時過ぎ、都内にある浅岡氏の工房から組み立てたばかりの今回の展示品の目玉であるキャリッジ(機械式時計の一部)と、展示に使う什器(じゅうき)数点を車に積み込み、東名高速で茅ヶ崎へ。梱包しスーツケースに積み込み、6時前の電車に滑り込む。午前中の飛行機でフランクフルトへ、約1時間の乗り継ぎで小さな飛行機に乗りジュネーブへ降り立った。ホテルは空港から1キロメートル以内。小雨に濡れながら、空港での預け入れ重量制限を優にオーバーした重たいスーツケースを引きずり、ホテルへ向かった。

 

ジュネーブのホテルはこの設備でこの値段、というほど高い。日本のビジネスホテルの3倍か、それ以上の感覚。こういう時に円安は痛い。

 

日本からの時差は7時間。今日本はちょうどお昼頃で、こちらは朝5時だ。6時半から始まる朝食を楽しみに待っている間にこの原稿を書いている。今回の展示会はEPMTという精密部品展示会である。ここに、本連載でも以前紹介した、”世界最高級品を作る”プロジェクトで製作した時計部品を持ち込む。

 

日本でなくあえてスイスでデビューさせることにした。最初から舞台は世界だということを自然と意識する。海外の展示会出展は、由紀精密に入社して5回目。アメリカが2回、フランスが2回、そして、初めてのスイスである。アメリカは医療系の展示会(航空系の展示会も併設される)。フランスでは航空機。そして、今回時計の部品はスイスに持ち込む。それぞれ、世界でも技術が最も盛んで、高度なエンジニアリングが集結する舞台で世界中の目の肥えた方々に見てほしい、という想いがある。

 

スイスは高級機械式時計では誰もが知る通り世界トップシェア。時計のよく知られたブランドはほとんどがスイスと言っても過言ではない。近年、生産量も輸出量もうなぎ上りである。一時期はクオーツに押されていた機械式時計だが、携帯電話・スマートフォンの普及が機械式時計の人気を加速させていると思う。クオーツの良いところは時間が狂わない・安い・小さい・多機能。

 

しかし、携帯電話に付いている時計機能があれば、この良い所は失われる。腕時計は正確な時間を知るという機能より、アクセサリー、持っているという所有欲を満たす要素が大きくなる。スイスの時計産業は、もともとフランスから移住してきた宝石職人から始まったそうだ。そう考えると腑(ふ)に落ちる。機能だけで美しくない時計が出てきた時、スイスの職人達は何を思ったか。技術と美術の調和。この1週間、展示会で多くの方々との話を楽しみながら、スイスの技術と歴史を感じられるよう、さまざまなものを見てきたいと思う。(月曜日に掲載)

20130624
(日刊工業新聞 6月24日付オピニオン面に掲載)