第78回『目標達成のサイクル』

目標達成のサイクル 2013_01_21

目標設定は難しい。達成できることが見えている目標は、達成した時に物足りないものになっていることが多い。全く現実味がないくらい飛び抜けていると、達成できないことを「しょうがない」と思うようになる。いつまでにどの辺りを目指すか。これを定めることはセンスも経験も必要だ。就職してから現在までの約15年間、さまざまなプロジェクトに関わってきたが、絶妙な目標設定であったと後から感じたものがある。

 

例を挙げると前職時代のプロジェクトで、従来、設計から射出成形まで45日かかると言われていた携帯電話の筐(きょう)体の金型を45時間以内で作ろうというものだった。当時の経営者の思いつきで出てきたのであろうが、24分の1という工期短縮はカイゼンレベルでは全く歯が立たない。普通の考えを持っている人間からすれば、ありえない目標設定である。

 

就職して1、2年目の新人ばかりで金型のことを「分かっていなかった」プロジェクトメンバーは、その時間の中で作るために何が必要かということをひたすら考え、全く新しい金型の構造から設計に使うCAD/CAM、生産管理をするソフトウエア、金型を切削加工する工作機械に至るまで、すべて自社で開発した。

 

知らないとは恐ろしいことでそれらを新規に開発することを全くちゅうちょしなかった。結果、2型を45時間以内で作り、射出成形まで行った。この技術開発が、数年後に世界の携帯電話開発業界に大きな影響を与えることになった。

 

このプロジェクトで常に感じていたことは、「あきらめモード」に入らないということである。あきらめモードとは目標はありつつも、内心で「この目標は高すぎるし、達成できないことが分かったけど、できるだけがんばろう」と達成できないことを正当化してしまうことだ。達成できない言い訳を考え始める。こうなると間違いなく目標は達成できない。

 

最後まで「どうやったら達成できるか」を考え抜くことで光が見えてくる。これは実際に体験し成功した経験がないと、次回同じ局面に差しかかった時に自信を持ってやり抜けないかもしれない。規模の大小はあれ、やり抜いて成功する体験を味わえるような仕事を、社員に与えることは経営者にとって重要な仕事だ。

 

由紀精密の経営に関わり、常に目標を立てている。働き始めの頃より、いろいろなことが分かるようになったことが邪魔してか、最近立てる目標は実現可能性が高そうな「面白くない」目標になりがちである。これを打開するため、頭の中身を空っぽにして、ゼロから考えることを意識的に行っている。全く自分と違う考えを持った友人と語り合うことも大きな刺激になる。それにしても目標達成のサイクルは中毒になる。

20130121

 

(日刊工業新聞 1月21日付オピニオン面に掲載)