第77回『技術開発の夢』

技術開発の夢 2013_01_14
昨年11月、日本機械学会の神奈川ブロックから技術賞をいただいた。対象は「航空用複雑形状部品の高精度切削加工技術」だ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)向けの仕事で、人工衛星のエンジンのノズルに関わる高精度加工が評価された。学術的な分野とは社会人になって以来すっかり離れていると思っていたので、素直にうれしい。

 

このような賞をいただくのは初めてというと、意外に思われる方も多いが、われわれ加工屋が普段業務を行っている中で、他社がやっていないような画期的な新技術が出てくることは少ない。むしろ既存の技術の中でどのように工夫して仕事をこなすかに注力しがちである。

 

そうなる理由として、自社で製品を開発しているメーカーと違い、中小製造業は自ら技術を生み出すことに従事する社員を置いていない場合が多いことが挙げられるだろう。現場の工夫でちょっとしたアイデア商品が生まれることはあっても、新しい技術を一から開発する機会はなかなかない。

 

由紀精密もしかりで、開発部を置いてはいるが、基本的にはお客さまの開発を加工屋からの視点でサポートする業務がメーンとなる。お客さまの仕様で装置を開発したり、ジグを設計したりする仕事だ。工学的な知識や設計技術が求められ、この分野をうまく軌道に乗せられたことが今の由紀精密につながっている。

 

今年はもう一歩前進し、頭をからっぽにした状態から、今までの延長線上ではない、新たな技術を生み出すことに、多くのリソース(経営資源)をかけたいと思っている。例えば競争力のある部品製造装置であったり、新しい加工方法の開発、さらにはSEIMITSU COMAのような単純なものだけではなく、より付加価値の高い”機械”としてお客さまに納められる、新たな製品を作りたいと考えている。

 

アイデアは無限に広がり、年初から夢のような妄想で頭がいっぱいでだが、夢を現実にするのはそう簡単ではない。それぞれ、やり遂げるにはかなりの時間とお金をつぎ込むことになるだろう。実際に利益が潤沢なわけではない状態で、借り入れをしてまで売り上げが決まっていない仕事にリソースをつぎ込むことは大変に勇気がいる。しかし、これが越えられなかった壁であると思っている。

 

この壁を突破する勇気を与えてくれるのも、多くの仲間である。幸運なことに、筆者の周りにはアクティブに活動されている、まさに”未来を自分で変える力”に満ちあふれている仲間が多い。今年6月、欧州で開催されるある展示会で、それらのアイデアの中の一つをリリースしようとたくらんでいる。世界に衝撃を与えられるような製品を日本の小さな町工場から発信したい

 

 

(日刊工業新聞 1月14日付オピニオン面に掲載)