第74回『要求に応える効率化』

要求に応える効率化 2012_12_17

筆者が由紀精密に転職したのは2006年。当時、由紀精密の強みは何だろう、ということで試みた顧客アンケートは、その後も定期的に続け、近年は隔年で実施している。先日4回目の集計が終わった。

 

質問の項目は毎回同じ。前回から改善が見られたかどうか定点観測したいという意図がある。品質とコスト、スピードと三つの視点から、その中身についての選択式だ。5段階評価で該当する項目に○をつけてもらうだけで終わるようになっている。A4の紙1枚である。

 

過去6年間、4回分の推移を見ると面白い。品質に関する評価は年々上昇。スピードへの評価も向上している。しかしコストに対する評価は非常に厳しく、ここ数年、下降傾向にある。アンケートを依頼している先方の担当者が購買部門であることが多いので、当然の結果かもしれない。だが、やはりコストが高いという評価は気になる。

 

顧客満足度を考えると、当然コストも安い方がよいに決まっている。由紀精密はコストダウンの戦略をとるのか。答えはYes、but…。日本の製造業は不況に陥るたびに、強烈なコスト削減の要求があり、赤字覚悟のコストダウンを受け入れてきた。現場の工夫で製造コスト削減に成功した一部の企業はなんとか収益を上げてきた。

 

問題は必要最低限のコストも無視されたおかげで無駄な不具合が生じ、最終的には余計なコストがかかっている場合が多く見られる。  ここに1本のネジがあるとする。見た目は何の変哲もないネジである。さて、価格はいくらであろう。どこかの国の量産ラインで全自動で作られ、たまに不良品も混ざっているがよしとしよう、という程度のものか。それとも特殊なネジ山形状で生産量も少なく、一つも不良品が混ざらないように全数ゲージ検査を行い、どの作業者が、どの機械でいつ加工したか、ということまですべて記録に残っているというハイレベルなものか。

 

価格は100倍、いや1000倍、それ以上の差が生じているはずだ。ある一定の品質要求を満たす特注品の場合は、しっかり管理するためにそれ相応のコストがかかる。いわば見えないコストである。見えないがため、省かれてしまうこともあるが、そのツケは製品の性能、信頼性に跳ね返ってくる。  由紀精密のコストダウンの方針は「やるべきことは省かない」。その最小限のやるべきことを無視している価格にはできない。ただし、やるべきことをいかに効率よく工夫して原価を下げるか。多少高いが安心感でそれを大きく上回る価値をお客さまに感じてもらえるようにする。日本人の性格と日本の製造業の文化がここで実力を発揮すると思う。

20121217

(日刊工業新聞 12月17日付オピニオン面に掲載)