第73回『製造業の奥深さ』

小学生にモノづくり教育 2012_12_03

食品容器の樹脂部品を射出成形で量産している東京都大田区の睦化工を訪れた。大田区と言えば金型産業の集積地として有名だが、その金型を使って大量生産する成形業もかつては多かった。しかし大量生産するにはスペースが必要。地価の高い大田区でそのスペースを確保するのは困難で、そのまま生産コスト高につながる。睦化工は大田区に工場を持ち、大量生産を続けている。どこに秘密があるのだろうかと非常に興味を持って見学させていただいた。

 

工場は3階建てのビルである。地価が高いので階層構造でスペースを確保する工場は大田区でよく見られる。だが一番重量のある射出成形機が2階に置かれているのは珍しい。1階は樹脂材料と出荷を待つ完成品の段ボール箱が天井まで積み上がっている。多い時は4トントラック3台分を一日で出荷するという。由紀精密は出荷が多い時でもワゴン車の荷台を一杯にすることはできない。

 

1階から真空の力で自動的に2階の成形機へとペレット(粒)状の材料が送り込まれる。天井に張り巡らされた配管の中をサラサラと音を立ててペレットが流れる。成形機は15台。24時間稼働で射出成形を続けている。成形単価は数円。それを年間1億個以上の製品を作り出すことで数億円の売り上げにつなげている。

 

3階のクリーンブースの中では次々と送り込まれる完成品が入念に検査される。一日中流れてくる同じ製品を集中力を切らさずに検査することは一種の特殊技能と言えるだろう。実際に検査員の目とその視覚情報を扱う脳は一般の人よりも数段進化しているということだ。視線を動かさず、流れてくる製品の画像をカメラのようにキャプチャーし、異常がないかどうかを過去の画像と比較している。

 

工場内はすべての場所が、筆者が見たことがないくらい清潔に保たれている。まさにゴミ一つ落ちていない。それは原材料から製品になるまで決して異物の混入があってはならないという厳しい品質管理から、社員全員が当然のごとく実施している清掃活動の結果であろう。小さな虫の侵入さえ許さない。工場内にはいたる所に虫を捕獲する装置が取り付けられ、そこに捕獲された虫はモニタリングされ、侵入の原因が調査される。ここまで徹底した管理が信頼につながり、都内での大量生産ビジネスが成り立っているのだ。

 

由紀精密はどんどん数量が減って、どんどん単価が下がっていく量産品について行けなかった。そこから少量、高付加価値へと業種を展開させて今がある。しかし、とことん製造コストを下げ、品質を安定させ、自動化することで、量産ビジネスを国内で残すという道もあるのだ。製造業は奥が深い。

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(日刊工業新聞 12月3日付オピニオン面に掲載)