第65回『生産技術を学ぶ』

生産技術を学ぶ 2012_09_24

由紀精密に開発部を立ち上げて6年たった。立ち上げのきっかけは下請け部品製造業からの脱却だった。最初は部品に対する改善提案のようなものから始めたが、お客さまからの要求が高度になり、最近では装置丸ごとの設計・製作や、商品開発にまで広がっている。

 

由紀精密で開発業務を行うことの強みは何だろう。一番は実際にものを作っているところだと思う。ものを作れるから作りやすい設計ができる。ただ切削加工だけにこだわっていてはいけない。ものを作る作り方は多種多様だ。それぞれにメリット・デメリットがあり、全般をバランスよく知っていることも重要だ。

 

筆者は恵まれたことに、前職のインクスでは樹脂金型の設計から製作、射出成形に至るまでの一連のプロセスを業務として学ぶことができた。もちろんインクスが得意なラピッドプロトタイピングや3次元CADでの設計もかかわることができた。

 

近年では、お客さまからの「こんなものを作ってほしい」という依頼に対し、その場でどういう設計にすればよいか、納期と価格はどのくらい必要か、ということがざっくりではあるが回答できるようになってきている。ここがお客さまからしてみれば「話が早い」ということになるだろう。

 

日本は「ものづくり立国」と言われるほど、ものづくりという言葉がよく出てくる。しかし、ものづくりを勉強している人はどれだけいるのだろうかと考えてしまう。筆者の場合、大学で機械科を専攻しているにもかかわらず、学生時代に本当の意味でのものづくりを勉強した記憶はない。金型という存在は知っていたが、なぜ金型が必要なのかを本質的に理解したのは、実際に金型を作ってみて射出成形を行ってからである。

 

以前、小学校の先生方に講演をする機会があったが、数十人の先生方で、1マイクロメートルは何ミリメートルでしょう?という質問に答えられる方がいなかった。小学校の先生はほぼ教育学部卒で文系ということだった。日本はものづくり立国というのなら、教育プログラムにものづくりに関わることをもっと取り入れたい。

 

11月に近隣の小学5年生1学年、130人を茅ケ崎の工業団地に招待することになった。ただの工場見学ではつまらないので、その前に自ら小学校へ出向き、体育館でものづくりの講義を行い、その後、テーマを持って工場を見学してもらう。さらには、小学生の考えたものを実際に作って見せて、プレゼントしようという企画も考えている。ものはどうやってできているのか、ここに興味を持ってくれる子供たちを増やすことが、真のものづくり立国につながるのではないだろうか。

20120927

(日刊工業新聞 9月24日付オピニオン面に掲載)