第63回『製造現場の女性たち』

製造現場の女性たち 2012_09_03

由紀精密に訪れるお客さまから、女子社員が多いですね、とよく言われる。由紀精密で働く従業員の約半分が女性である。筆者が生まれた頃から働いてくれているベテランから、20代前半の若手まで年齢層も幅広い。さらに、特徴としては、ほとんどの女性が製造現場にかかわる仕事をしている。

一般的には町工場の現場、それも金属加工という油にまみれた世界は女性からは敬遠される代表的な職場であろう。だが、うちの工場では女性が大活躍している。それどころか、多くの重要な役割を担っているので、男性の方が立場が弱い状況もよくみられる。

精密加工で美しく仕上がった製品はある意味宝石のようにも見える。また、宝石に近いくらいの付加価値を持っているものも珍しくない。材質は鉄の塊でも、そこに数十倍、数万倍もの価値をつけることが精密加工の醍醐味(だいごみ)でもある。彼女たちの目は非常に厳しく、そういった製品に少しでも傷がついた状態でお客さまに届けるのは納得がいかない。この感覚は由紀精密にとっての高い付加価値を生み出す源泉となっている。

パートタイマーとして採用し、その活躍から正社員になってもらった例も多い。ある20代の女性社員は、今までほとんど社長しかやっていなかった40年以上も前の卓上旋盤の段取りを2年そこそこでマスターした。切削の刃物台を移動させるのは手の感覚であり、職人技とも言われる領域でもある。

こんなこともあった。大きな台風による冠水で、車通勤の社員が会社にたどり着けなかった中で、ベテランパートタイマーの方々は真っ先に自転車で会社に到着し、平然と業務をこなしていた。安定感抜群である。

筆者は男だから、女だからとステレオタイプ的な考え方はあまり好きではないが、由紀精密の現場を見ていると、精密で細かい作業を確実にこなしていくところは女性が強い。集中力を長時間維持させなくてはならず、決して楽な作業ではないが、確実に淡々とこなしていく。ちょっとした異常にも良く気付く。会社の品質を担う検査工程でも安心して任せられるのがやはり女性社員だ。

他の会社はどうなっているか少し気になったので、経済産業省の公表する2007年の統計データを見てみると、製造業の女性従業員比率は中小企業で42・5%、大企業が22・9%だった。精密機械器具製造業は製造業全体の比率よりさらにやや高い傾向にある。中小製造業は結構女性比率が高い。由紀精密も驚くほど高いわけではないのだ。それに比べて大企業で低いのはなぜだろう。  実は中小企業の方が、女性の活躍の場をうまく見いだしているのでないか。そう考えても面白い。

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(日刊工業新聞 8月27日付オピニオン面に掲載)