第41回『IT経営力大賞』

IT経営力大賞 2012_03_05

2月24日、霞が関の経済産業省向かいのホールで、IT経営力大賞の授賞式が行われた。経済産業省が主催し、優れたIT経営を実現している中小企業が表彰される。IT経営とは何だろう?近年ではホームページをもたない会社はないほどインターネットが普及し、会計、給与計算、工程管理にも当たり前のように使われている。IT経営という言葉自体もはや時代遅れの響きがする。授賞式ではどんな会社が表彰されているか、興味津々で足を運んだ。

 

経済産業大臣賞を受賞した3社のプレゼンを聞き、良い意味で期待を裏切られた。各社ともに最新のIT技術のアピールではなく、「自社のビジネスモデルに対しどのようにITを使うか?」に素晴らしいアイデアを持っていた。工作機械向けセンサーを製造販売するメトロールは、中小企業では困難な海外小口顧客への販売を、製造業では珍しいクレジットカードで電子決済できるウェブサイトで実現した。板金加工の小林製作所は、社内に90以上のウェブカメラを置き、会社全体を動画で記録した。究極のトレーサビリティーとも言えるだろう。ワイン卸業のモトックスは、ワインのラベルをスマートフォンで撮影して情報を取得するシステムを飲食店に無償で提供、ワインへのユーザーの興味を喚起し、業績を急速に伸ばしている。

 

各社それぞれのIT技術は今や当たり前の技術だが、どうやって使い、どのような経営課題をクリアし、実績を上げたか?というところで、お手本となるモデルである。

 

さて、次は由紀精密の番だ。登壇するのは由紀精密の最高情報責任者(CIO)兼品質管理責任者の笠原である。由紀精密は、ここ数年でメーンの顧客からの売り上げが減少する中で、航空宇宙業界、医療業界へとどんどん業種を広げ、業績を伸ばすことができた。営業専属の社員はおらず、営業は年に数回の展示会以外はウェブサイトがその役割を担っている。当然、問い合わせも増え顧客数も倍増し、管理業務も必然的に増加するはずだ。

 

しかし、由紀精密は管理系の社員数も増やさず、自社開発の新しい統合システムを運用することで乗り切った。常に人員が不足する中、実際の業務にも押されての開発をほぼ一人で乗り切った笠原には恐れ入る。こういったところが評価され、優秀賞をいただくことができた。大変に光栄であると同時に、まだまだ山積している課題をクリアし、優秀賞に恥じないシステム運用を行わないといけないと気合が入る。余談だが、賞の運営側から授賞式2日前に連絡があり、表彰状は社長が受け取ってほしいとの打診があったそうだ。もちろん答えはNOである。この受賞に関しての会社の代表は笠原以外の誰でもない。

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(日刊工業新聞 3月5日付オピニオン面に掲載)