第40回『出番増える切削加工』

出番増える切削加工 2012_02_27

ある展示会で、由紀精密の切削加工サンプルを見た女性が、「これ削って作っているんですか?もったいない!」と言った。そのサンプルは、旋盤加工技術の高さをアピールするために、直径64ミリメートルの素材から同0.8ミリメートルまで細く、長く削り出したものだった。多くの同業者の方からの反応と異なり新鮮であったことと同時に、確かにその通りだと思った。

 

ものを作る方法はいろいろある。世の中にある多くの製品は、金型を作って、そこに材料を入れて固める。これは材料に無駄が出なくて効率がよい。あるいは、素材を伸ばしたり、曲げたり、型に押し付けたり、素材を「変形」させる加工方法がある。こちらも材料に無駄がない。

 

それに対して切削加工はどうだろう?素材から製品の形を引き算した部分は切り屑となる。切り屑はリサイクルしてまた金属材料に戻るとはいえ、他の加工方法に対しては素材に無駄が出る。それでは、切削加工は非効率でエコではないのだろうか?

 

私は前職で樹脂製品の金型関連の仕事をしており、6年前に切削加工の町工場に移った。その前から、切削加工というものはどういうもので、将来どうなるのだろう?と考えていた。年々樹脂の性能が上がり、金属の機構部品は強化樹脂で代用できるようになる。そうなれば、コストが圧倒的に低い射出成形で事足りる。製品自体もかつては機械的に成り立っていた機能がどんどんセンサーと電子回路に置き換わっている。テレフォンカード式の大きな公衆電話よりも、液晶パネル1台のスマートフォンの方が何百倍も多機能である。

 

さて、実際はどうであろう? 実は、想像を大きく覆すほど、切削加工の仕事は”ある”しかも、ある分野に置いては最も効率が良く無駄のない方法であることもわかってきた。キーワードは、「量」「スピード」そして「人」ではなかろうか。生産量が少なければ金型を作るよりも実際に製品を削ってしまったほうがスピーディーでコストもかからない。ということは容易に想像できるだろう。

 

もう一つは、人の存在に関わるものにヒントがあると感じる。人を運ぶ自動車はセンサーと電子機器だけでは代用できない。飛行機に関してもそうである。「人」という物理的な存在を移動させるものは、構造が必要で、機械部品は避けられない。そこに「安全」が加わると、高い精度で金属部品を加工できる切削加工の出番となってくる。まさに、飛行機部品は生産量が少なく、高い安全性が必要なので、切削加工品の出番が多い。

 

「人」と「安全」を考えると、医療機械の分野も切削加工が必要とされる部分が年々高くなっている。介護用ロボットが一家に一台置かれるようになったら?それは、飛行機レベルの信頼性と医療機器レベルの機能と安全性が必要。確かに絶対的な量では、切削加工は減っていく。しかし、まだまだ切削加工の使われる領域は広がる。そこを常に追い求めることが必要であろう。

20120227

(日刊工業新聞 2月27日付オピニオン面に掲載)