第35回『全日本製造業コマ大戦』

全日本製造業コマ大戦 2012_01_16

2月2日、全国の製造業がアイデアと技術の粋を尽くして創り出した「コマ」を戦わせる大会が、パシフィコ横浜の展示会会場内で開催される。ルールは簡単。直径250mmの土俵の上で、外に弾きだされずに長く回っていたコマが勝ち。コマは直径20mm以下、指で回すことが条件だが、形状、材質に制限はない。フェイスブックを通じて参加者を募ったところ、全国16チームの出場枠はあっという間に埋まってしまい、さらに追加の応募が多いため枠を増やす検討をしている。「全日本製造業コマ大戦」これが大会につけられた名称。優勝者が全参加者のコマを総取りできる。これが優勝賞品になる。主催団体は横浜の木型モデル会社・ミナロの緑川賢司社長を中心に有志の製造業が集まった「心技隊」である。

 

この大会には、コマというテーマを中心にさまざまな要素が込められている。普段は与えられた図面を元に製品を作る製造業が、自らのアイデアで一つの製品を設計する。これを通じて社内のコミュニケーションが活発になり、モチベーションが自然と上がる。そのコマを使って、同じレギュレーションで製造業同士が勝負をする。お客さまから仕事を受注すること自体が競争かもしれないが、普段は競争相手が見えない。下請け加工の製造業同士、単純に誰が一番?という競争を行ったことが、かつてあっただろうか?各社、通常の業務だけでも手いっぱいにもかかわらず、大のおとなが眉間にシワを寄せながら小さなコマの設計をしている姿が目に浮かぶ。

 

由紀精密ももちろん参加する。この大会のきっかけになったのも、この連載でも何度か取り上げている由紀精密が作ったパリの航空ショー向けの精密コマである。ここは負けられない。社内ではいろいろなアイデアが飛び交う。エネルギーをたくさん蓄えるために重い方がよいのではないか? 抵抗を減らすために先端はできるだけとがった方がよいのではないか? とがり過ぎても土俵に刺さる? 私も一応工学系の勉強をしていたので、「物理的に」どういった条件を満たすと強いコマか、ということを社内のメールで長々と書いたりしてみたが、この世界は数式とか理論が通用しないところも面白い。長く回せるだけではなく、相手のコマに勝つという要素が入るので、相手がどういうコマを作ってくるか?という読みも必要となる。

 

大会まで1カ月を切り、ネットを通して他の参加者からテストの映像が続々と送られてくる。ジェット機のようなごう音でいかにも強そうなコマもあれば、低重心で美しいものもある。しかし、どの参加者もここで本番のネタバラシはしないだろう。当日持ち寄るコマがどんなものか?考えただけでもワクワクする。

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(日刊工業新聞 1月16日付オピニオン面に掲載)