第28回『災禍に負けない企業』

災禍に負けない企業 2011_11_07

タイの大洪水。自動車業界をはじめ、多くの製造業がアジアの主要工場をタイに進出させてきた矢先である。つい数週間前までは、「タイには仕事があふれている」と同業の仲間でもうわさになっていたところだ。それにしても、リーマン・ショック、大津波、原発、と企業にとってまさに壊滅的なダメージを与えるできごとが何度続くのだろう。この中で、どういった企業にすれば、この先安心と思えるのであろうか?

 

私の住んでいる茅ケ崎市のホームセンターに、大変有名な駐車場誘導員の方がいる。彼は毎日、ホームセンターの入り口に立ち、踏切も近くて交通量もとても多い、大変困難であろう交通整理を行っている。指示を出す手さばきは明確でスピーディー。ドライバーは迷わずに動くことができる。アクションは一度見たらやみつきになるほど特徴的で、いつも全身全霊で仕事をこなしている事は、誰が見ても明らかである。

 

土砂降りでも炎天下でも路上に立ち、時にはドライバーから文句を言われ、時にはひかれそうになることもあるだろう。製造業の現場の作業者から見ても、それは大変な仕事だ。そんな中で彼は毎日非常に高いモチベーションを保っている。ホームセンターの前を通り、彼の姿が見えないと寂しく感じるくらいだ。彼には店長と同じくらいの給与を払ってもよいのではと思う。私と同じ事を感じる人はやはりたくさんいるようだ。あるSNSでは、彼のファンのコミュニティーがあり、人数も1000人を優に超えている。本人がその事を知っているかは定かではない。多分知らないだろう。

 

仕事はいろいろ。楽しいものも苦しいものも、難しいものも単純なものもあるだろう。ただ、同じ仕事をする時に、どこまで真剣に、どこまで本気で力を注げるか?私は自分の仕事を彼のように全身全霊をかけてやっているだろうか?

 

世界の動きを感じ、経済の状況を読んで、製品の流行を追い、自社のできることを考える。多くの企業はそうやって成長してきた。しかし、どんなに考えても、どんなにお金を使ってコンサルティングをしてもらっても、大災害や世界恐慌を完全に読むのは不可能である。もしかしたら、もっと単純な事にとても大きな価値があるのではないかと思う。

 

今ここにある仕事、自社のやっている事に最大限の価値を持たせること。まさに、全身全霊その仕事に集中し、最高のアウトプットを出すこと。これを追求し、その仕事は自分が一番、絶対に世界でここまでやっている人はいない、と思うことができれば、それが盤石な競争力となることだろう。

 

この連載をスタートしてから約半年。多くのできごとが自分の経営の考え方に影響を与えている。

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(日刊工業新聞 2011年11月7日付オピニオン面に掲載)