第3回「欧州市場で腕試し」

「欧州市場で腕だめし」

【世界またぐクラスター】

フランスのリヨンから電車で1時間ほど西に、サンテティエンヌという地方都市がある。もともと炭鉱で栄えた町であり、今でも金属加工業を営む企業が多い。仏で航空産業というとエアバス社の組立工場のあるトゥールーズが有名だが、金属加工の細かい部品製造に関してはむしろこちらの方が盛んに思える。

ゴールデンウイーク明けの週に、ここで小さな発表会を行った。この土地で古くから金属加工業を営んでいる仏企業、AS―MECA BERNARD社(以下AS社)と、日本を飛び出しその企業の中にオフィスを構え、仏での生産体制を築くべく活動するダイショウ、そして茅ケ崎で精密加工を営むクリードと由紀精密。この日仏4社で戦略的なパートナーシップ契約を結び日本と仏にまたがる精密加工業のネットワークを構築するという取り組みに関して、取引先企業、地元政治家、日本領事館、日本貿易振興機構(ジェトロ)、マスメディア、その他関連する方々を招待して発表した。

工場の工作機械の間にステージを作り、いすを並べ、100人ほどのゲストに対してこのパートナーシップの生い立ちと今後の展望を説明し、パネル討論、質疑応答、そして簡単なカクテルパーティーを行い、熱い議論が繰り広げられた。

ACT(アクト)と名付けられたこのパートナーシップは、日仏間の下請け製造業がそれぞれの技術を駆使して、欧州、日本そして世界中の顧客に対してサービスを提供できる体制を構築することを目標とする。具体的には、秘密保持、受発注、技術交流、社員交流などが契約書に盛り込まれている。日本国内でも、同じ地域の製造業がクラスターを組んだり、同業種の製造業が地域を越えたつながりを作ったりと、1社では対応できない仕事に関してパートナーシップを組んで対応するような取り組みは数多く見られる。我々も地元茅ケ崎の中小企業で小さなクラスターを作っていた。

【似たAS社と意気投合】

2010年、由紀精密は欧州進出計画を立て、茅ケ崎のクラスターの中の数社がこの計画に賛同してくださり、共に実行してきた。欧州進出計画の一つのゴールとして、輸出入だけにとどまらずに日本でも欧州でも製造ができる体制を作ることがあったが、まさに今回の発表がその形を示すものとなった。

AS社との出会いは11年までさかのぼる。仏の政府系機関からの紹介で出会い、秘密保持契約を結び、定常的ではないものの実際の取引が始まった。AS社は、我々と事業規模もほぼ同等で、事業領域としても高付加価値小ロット品を高い技術力を要する顧客へと提供するというところで、日本国内での我々のポジショニングと類似性が高い。

また、社長のアラン・ソーワ氏は親日家であるだけでなく、日本の技術力に対して関心が高く、自社内へのダイショウ石塚裕社長の受け入れも彼の提案によるものであった。AS社にとっては、まさにこれから必要としている技術を日本ですでに実践している日本企業とコラボレーションすることが動機になっている。実際、ダイショウの石塚社長の渡仏に合わせて新しい5軸加工機を現場に導入するなど、AS社側からの期待も大変に大きい。

【日本のモノづくりで勝負】

欧州進出する日本企業は数多く存在するが、こういった形で請負加工の製造業として仏に進出するという例は筆者が調べた限りでは初めての例である。人件費の安さを求めてアジア方面へ工場進出する製造業は多く見られるが、あえて国内よりも人件費の高い欧州に販売拠点ではなく製造拠点を持っていく例はまだまだ少ない。日本の製造業は世界的にレベルが高い、日本のモノづくりは世界に誇れるなど日本のモノづくりを礼賛する声を国内で数多く耳にするが、本当にそうなのか。世界に実際に出て一緒に働かないと本当のところはわからないのではないか。まさにこれから我々はリアルな体験としてそれを実感することになるだろう。