第32回『機械加工の未来』

機械加工の未来 2011_12_19

自動車が大好きな私だが、人ごみが苦手なこともあって、東京モーターショーに足を運んだのは今回が生涯で3回目。1回目は小学生のころ、親から借りた一眼レフを片手に、満員電車のような人ごみをかき分けて車の前までたどり着くのが精いっぱいだった。2回目は大学院生時代。友人から借りた出展者用のチケットで、一般公開前に回れたのは運が良かった。会場の広さ、出展規模の大きさに驚いたものである。

 

あれから12年、会場を東京ビッグサイトに変えたモーターショーは、私が社会に出て町工場の経営を仕事にしてから初めての機会となった。混雑を予測して、会場の一つ手前の駅で駐車場に車を止めて電車で向かったが、さほどの混雑もなく、あっけなく入場ゲートを通過できた。にぎわってはいるものの車に近づけない程ではなく、バブル当時は華々しくブースを飾っていたであろうコンパニオンもかなり控えめである。

 

私は機械加工の仕事に就く前から「世の中から機械加工が必要なモノがどんどんなくなっていく」と考えていた。例えば計算機。遠い昔、そろばんは機械加工部品だけで成り立っていた。初期の自動計算機はとてつもなく大きく、歯車と軸の組み合わせだった。それに対し、現在、スマートフォンに載っている計算機機能には、ひとつも機械加工部品を感じられない。最近では、精密な機構部品を多数使用するハードディスクが、機械加工をほとんど必要としないソリッド・ステート・ドライブ(SSD)に置き換わりつつある。

 

自動車はどうだろう?エンジンがモーターに変わる流れはあるが、人間という物理的に重さのあるものを支える機能として、機械は必須である。これは乗り物全体に言えることで、機械はなくならないだろう。気になるのはヒューマンインターフェースである。車の運転までタッチパネルになってしまうと、機械加工部品は大きく減少するだろう。

 

三菱電機のブースに興味深い展示があった。ハンドルに埋め込まれた格子状に配置された発光ダイオード(LED)ボタン。表面を触るとタッチパッドのようにメーターパネルのインジケーターを操作できる。ここまでは予想通り。しかし、このLEDは動いて形を変え、その形を指先で感じられる。さらに盛り上がった部分を実際に押しこめば、カチッと確かに機械を感じさせるスイッチになっているのだ。ここには、高度な機械要素が盛り込まれ、多くの精密な機械部品が必要になってくる。

 

町工場に入り、多くのお客さまを営業に回り、多くの展示会に出展して思ったのは、想像していたより精密な機械加工部品が必要な市場は「ある」ということである。ただ、それは従来とは違う分野にどんどんシフトしていることも確かだ。

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(日刊工業新聞 12月19日付オピニオン面に掲載)